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意識障害: 転帰、併存疾患、およびケアの必要性

  • 執筆者の写真: 事務局 CRS-R
    事務局 CRS-R
  • 10月4日
  • 読了時間: 6分

米国における意識障害(DOC:Disorders of Consciousness)患者のリハビリテーションケアは、混乱した歴史をたどってきた。一般に、重度脳損傷者に対する体系的なリハビリテーションの取り組みは1970年代以前にはほとんど行われていなかった。というのも、リハビリテーションで必要とされる適応や代償戦略には高度な認知機能が不可欠であると考えられていたからである。1980年代、出来高払い制度下で脳損傷リハビリテーションプログラムが組織化され発展していく中で、その一部はDOC患者に対し集中的なリハビリテーションや「昏睡刺激(coma stimulation)」を提供することを目的として設計され、リハビリ目標が継続する限り保険者から償還を受けていた。神経学的な進展の有無にかかわらず、植物状態の患者が受傷後数か月にわたって1日数時間のリハビリを行っているのは珍しくなかった。しかし、そのようなプログラムが回復の軌跡を変えるという証拠がないままに高騰する費用に直面した結果、振り子は逆方向に大きく振れた。多くの公的・民間保険プランでは極めて制限的な給付方針が採用されたのである。現在の米国においては、多くの医療保険者が、脳損傷患者が少なくとも最小意識状態(MCS)にあり、かつ明確な機能改善を示していることを急性期入院リハビリプログラムへの入院条件として求めている。これは特に厳しい基準であり、なぜなら非専門家の手にかかると患者の意識レベルが誤診されることが非常に頻繁にあることが、複数の研究で示されているからである。


入院リハビリに進めない患者には、保険給付や家族支援の程度に応じて、療養型施設や自宅での介護者によるケアといった様々なレベルの医療支援が提供されるのが一般的である。これは米国の主流の支払い方針であるが、必ずしも普遍的なものではなく、国外でも同じではない。退役軍人局(VA)制度では、DOC患者に対して90日間の急性期入院リハビリが提供され、集中的な神経行動学的評価、意識回復に影響する併存疾患への対応、全身的健康の促進、そして地域生活への退院準備のための家族支援が行われる。また、労災補償を受ける患者の多くも急性期入院リハビリを受けることができる。さらに、いくつかのヨーロッパ諸国では、DOC患者あるいは外傷性DOC患者すべてに対して初期の集中的リハビリが提供されている。興味深いことに、このようにDOC患者への早期集中的リハビリを行っている医療制度は、その後の長期的なケア費用も自ら負担する責任を持つ制度である。


このような早期集中的リハビリケアは、機能的に改善する患者にとっても、そうでない患者にとっても利益をもたらすと考えられている。併発症の特定と管理は、後の急性期病院への再入院を減らし、神経学的回復により安定した生理学的環境を提供する可能性がある。ケアの簡素化や家族教育・支援により、患者が家庭で介護される可能性が高まる。予後の継続的精緻化は、長期的により合理的なケア決定を支える。さらに重要なのは、専門的リハビリプログラムとの継続的なつながりにより、遅れて出現する機能変化を発見し、それを活用できる可能性がある点である。


このような政策背景のもとで、DOC研究は飛躍的な進展を遂げてきた。植物状態と最小意識状態が定義され、運用上区別されたこと自体が診断・予後研究の大きな発展をもたらした。正確な診断に寄与する新しい評価ツールも開発され、心理測定学的に検証されている。縦断的アウトカム研究も増加し、相当程度の遅延回復が起こり得ることが示されている。電気生理学や機能的画像研究の進歩は、運動行動とは異なる脳活動を明らかにし、行動上は無意識に見える患者が実際には潜在的な意識活動を持つ可能性を示唆している。さらに、少なくとも一部のDOC患者の機能に影響を与える治療法も複数示されている。


DOC研究は臨床的文脈で行われ、DOC患者に対する医療保険給付方針は研究進展に大きな二次的影響を及ぼしている。メカニズム研究や臨床研究のインフラは大学や大規模リハビリ治療プログラムに存在するのが一般的である。しかし米国では、DOC患者は受傷から数週間でこれらのシステムから切り離され、家庭や介護施設に分散され、DOC診断や併存疾患に特別な訓練を受けていないプライマリケア医により管理される。そのため、全米障害・リハビリ研究所(NIDRR)外傷性脳損傷モデルシステムのような豊富な縦断データベースには十分に含まれず、大規模サンプルを必要とする治療研究に組み入れるのも困難である。実際、近年の革新的DOC研究の多くは、リハビリへのアクセスが比較的良好なヨーロッパから発信されている。


2つ以上のケアシステムを比較し、DOC患者の機能的アウトカムや発生するコストを評価した大規模ランダム化試験は存在しない。残念ながら、そのような試験が実施される可能性は低く、保険者が資金を提供しない限り不可能である。研究費で保険未対応の入院治療プログラムを賄うことはできないからだ。高度脳損傷患者に対する集中的入院リハビリへのアクセスについても同様であり、ランダム化試験は実施されていない。しかし、EBM(エビデンスに基づく医療)とは「最適な証拠が存在するかどうか」を判断することではなく、「現時点で利用可能な最良の証拠に基づいて決定すること」である。


この論文集は、NIDRR外傷性脳損傷モデルシステムのDOC特別研究グループと、米国リハビリ医学会の脳損傷学際的特別研究グループのDOCタスクフォースによる国際共同研究として始まったものである。本論文集は、DOC患者のケアシステムに関連する最良の証拠を前進させることを目的に企画・編集されたもので、予後、ケアニーズ、ケアモデルという3つのサブテーマを扱っている。上述の研究インフラの課題に沿って、これらの研究は主にDOC患者にリハビリを提供するシステムで行われている。そのため、他のケアシステムで治療を受けている多数の患者への一般化には注意が必要である。


こうしたシステムを発展させるためには、保険者や政策立案者、リハビリ専門職、脳損傷患者やその家族の支援団体、そして研究者を含む複数の利害関係者の協働が必要となる。保険者は、より集中的な診断評価や医学的安定化のための初期費用を支払うことに同意しなければならない。さらに、患者が急速な機能的改善を示さなかったとしても、亜急性期において継続的な経過観察やリハビリ相談を必要とするため、専門性を持った介護施設が必要となる。保険者は、ある程度の専門的知識を維持し、縦断的なデータ収集に参加し、ケアの難しい患者や比較的長期の生命予後を持つ患者を受け入れる施設に対して、より有利な支払いレートを提供する必要があるかもしれない。


保険者、政策立案者、研究者は協力して、このようなシステムの導入に伴うコスト増加が、後の再入院や潜在的に無益なケアの減少によって相殺されるかどうかを評価しなければならない。より一貫した臨床システムが整えば、研究のための基盤も構築され得る。その基盤を活用して、公的研究資金配分機関は、評価の改善や機能回復の促進を目的とした治療研究、ならびにさまざまなケアシステムの費用対効果を理解するための研究を支援する必要がある。


また、最適なケアシステムを設計するにあたっては、介護者のニーズ、ならびに長期にわたる介護が介護者に与える心理的・経済的影響を無視してはならない。資金提供者、臨床家、研究者、介護者が協力することによってのみ、この新たに生まれつつあるエビデンスの波を、意識障害患者に対してより効果的なサービスへと変革していくことができるだろう。




 
 
 

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